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芭蕉百句 100 haikus of Basho

芭蕉百句の評釈と英訳 100 haikus of Basho selected and translated into English by Takatoshi Goto  © 2021 Takatoshi Goto

ほとゝぎす大竹藪をもる月夜

ほとゝぎすおおたけやぶをもるつきよ

 

 元禄4年(1691)4月20日の作か。芭蕉は、同年4月18日から5月4日まで京・嵯峨野にある向井去来の別邸である落柿舎に滞在している。今でも嵯峨野と言えば、特に竹林の道が有名であるが、当時はもっと竹林あるいは竹藪が多かったと思われ、落柿舎あたりも例外ではなかったのであろう。
 大きな竹藪から月の光が漏れているところに、時鳥の声が聞こえてくるという句意であるが、天に伸びる竹の林を一条の月影が貫いているだけでも幽玄な世界を彷彿させる。さらに、そこに時鳥の甲高い一声が響き渡れば、そのあとの静寂もいっそう深まる。「光と声との交錯が、一種凄味を帯びた幽玄寂境を作り出す」(『芭蕉全発句』)という山本健吉の句評がまさに正鵠を射ていると思う。のちに芭蕉が詠んだ「郭公(ほととぎす)声横たふや水の上」(『藤の実』)を思い合わせると、斜交いの竹と月光、そして、水平的な時鳥の声という具合に多角的な交錯をもたらす空間として竹藪は「大竹藪」ではならなかったのである。さらには、もし芭蕉が竹を触るか、あるいは、その場の清気を肌や匂いで感じたのであれば、視覚と聴覚のみならず、触角と嗅覚による多元的な感官にも留意しなければならないだろう。

 もっとも、「もる」には「守る」が掛けられることもあり、掲句には、生命の営みを陰に支える月の力も込められているように感じられる。『芭蕉庵小文庫』にある掲句の初案と思われる句の下五が「もる月ぞ」となっていることからもそれが覗える。

 ちなみに、動物にとっては特に脳における情報の処理やリフレッシュ、植物にとっては光合成の糖代謝に関わる酵素群を休ませることによるエネルギー消費の軽減などに夜が不可欠である。もちろん芭蕉がそう考えたというのではない。あくまでも私見であるが、「もる月夜」と推敲されたことによって、「時鳥」「月」のみならず「大竹藪」さえも包み込む「夜」という大いなる時空の持つ神妙な働きも加味され、句の趣がさらに深遠なものになったのではないだろうか。

 

季語 : ほとゝぎす(夏) 出典 : 『嵯峨日記』(『芭蕉庵小文庫』『笈日記』)

 

A song of cuckoo —
the moonlight is shining
into the bamboo forest

 

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竹林の月