自づから陽差しに集ひ花返る 林 桂
陽の中に出て行く径や野紺菊 同
蹲るやうに若松林なり 同
蓬生の闇を育てて日暮かな 同
朝顔に深々と射す宇宙かな 同
長崎の空の色なる海の色 同
金魚玉に虹色現れし夕日かな 同
寒昴未来に追ひつくことなくて 同
枯れてゆく明るさにゐる水の神 同
噴水の輝くところから崩る 同
潮風の届かぬ陸や夏椿 同
かなかなの風に落ちたる水の音 同
天上に散る花のある睡さかな 同
図書館の噴水雨に濡れてゐる 同
蟬の穴より月光の漏れ出づる 同
林桂『遠近紀行』

