俳句・短歌ランキング
にほんブログ村 ポエムブログ 俳句へ
にほんブログ村

芭蕉百句 100 haikus of Basho

芭蕉百句の評釈と英訳(漸次更新中) 100 haikus of Basho selected and translated into English by Takatoshi Goto

人も見ぬ春や鏡のうらの梅

ひともみぬかがみのうらのうめ

 

 元禄5年(1692)の作。芭蕉は、前年の10月29日に江戸へ戻り、日本橋橘町の借家で越年しており、元禄5年5月に新築された深川の芭蕉庵に入っている。したがって、掲句は掲句は借家住まいの折に詠まれたものと思われる。

 江戸時代の手鏡には白銅境がよく用いられており、鏡面の裏には花鳥などの装飾が鋳付けられている。そこに密かに咲く梅をあまり人が見ないように、隠棲する芭蕉も人とあまり接することのない春を過ごしていることが掲句から覗える。つまり、春爛漫の世間とは裏腹にある鏡の梅と芭蕉が同化している。

 ちなみに、鏡に映されるものは、たしかにこの世であるが、それは自分から見れば左右反転しており、全くのこの世を反映している訳ではない。それは鏡面側すなわち他者から見た映像と同じではあるが、自分から見たこの世を鏡にそのまま映し出すことは不可能である。掲句では、上述のように「人も見ぬ」が「梅」に掛かるとする解釈が一般的だが、それはそれで良いとして、私はむしろ春なのに他人を見ることもない侘び住まいの芭蕉とも捉えたい。もちろん、他者の視点を持つ鏡と言えどもその裏側を映し見ることはできない。つまり、芭蕉も梅も他者からの干渉を受けることなく、自らの春を己がじしひそかに過ごしているということになる。そこに「自灯明」の精神を養う芭蕉の道心もまた覗われる。

 

季語 : 春(春) 出典 : 『己が光』

 

Despite the spring
I meet nobody, they notice plum blossoms
on the back of mirror

 

f:id:basho100:20210414163157j:plain

梅の花