はつあきやうみもあをたのひとみどり
貞享5年(1688)初秋の作。前書に「鳴海眺望」とある。鳴海は東海道五十三次四〇番目の宿場であったが、現在では埋め立てにより、歌枕の鳴海潟は消失し、海を見ることはできない。掲句は、当時、そこにあった児玉重辰亭で詠まれた発句であり、おそらくその席上から見える青田の先に海が見渡せたのであろう。遠く青田と海の接するあたりでは両者の色合いも近く、あたかも、海が青田の一部として同化しているように捉えたのが「一みどり」という措辞に表れている。
ちなみに、「みどりの黒髪」「みどり児」などの言葉があるように、本来、「みどり」とは、「緑」や「青」という色彩ではなく「瑞々しさ」を示すものであった。つまり、瑞穂や海鮮にも通じる「瑞々しさ」も掲句の「一みどり」に込められているように感じられる。また、「鳴海」は「成る身」と掛詞にもなることから、「海」も「青田」の「みどり」に包摂されて一つに成ると敷衍されるかもしれない。さらには、縄文稲作の可能性はさておき、弥生時代における大陸から海を渡って伝わった稲作文化や日本の美称である瑞穂国のことなども脳裡を過ぎる。季重なりではあるが、爽やかな風が陸海を瑞々しく吹き渡る光景が思い浮かばれて「はつ穐」すなわち「初秋」がうまく活きている。
季語 : はつ穐(秋) 出典 : 『千鳥掛』
Early autumn —
the sea is unified into green
of rice fields