俳句・短歌ランキング
にほんブログ村 ポエムブログ 俳句へ
にほんブログ村

芭蕉百句 100 haikus of Basho

芭蕉百句の評釈と英訳 100 haikus of Basho selected and translated into English by Takatoshi Goto  © 2021 Takatoshi Goto

おもしろうてやがてかなしき鵜舟哉

おもしろうてやがてかなしきうぶねかな

 

 貞享5年(1688)、岐阜長良川で鵜飼を見ての作。『笈日記』には「稲葉山の木かげに席をまうけ盃をあげて」とあり、芭蕉は闇夜に篝火が灯る鵜舟を河畔から眺めた。初めは、その珍しい漁に興味が湧いて酒も進むが、やがて漁が終わり篝火も消えて舟も去り、もとの暗い静寂に包まれる。古来からの漁法とはいえ、捕らえられる魚はもちろん、「疲れ鵜」という傍題季語があるように鵜にとっても難儀なことであろう。そう考えると、「面白さ」から「悲しさ」へと変わる心境に人生の辛さや儚さも重なってくる。もっとも、芭蕉には謡曲『鵜飼』における仏教的無常観が掲句の下地にあったことは多く指摘されているところである。

 余談になるが、『グレン・グールド バッハ没後250年記念 総特集』(『文藝別冊』KAWADE夢ムック)において、グレン・グールドの特集が組まれていた。彼がよく朗読していたという夏目漱石の『草枕』が、死後、ベッドの脇から聖書とともに見つかったことや、俳句や禅といった日本文化にも親しんでいたらしいことが書かれてあった。また、「グレン・グールド変奏曲」というインタヴュー記事のなかで、武久源造氏は、グールドの音楽を「最も冷たい温度で燃える火」といい、横田庄一郎氏は、グールドのデビュー盤から聴いてきて思い浮かべるものとして、掲句を挙げ、あらゆる芸術に通じる真髄をよく言い表していると述べていた。

 武久氏がいう蛍の光にも似た「冷光」も、そして闇夜に浮かぶ鵜舟の「篝火」もまた畢竟、タナトスの彼方なる「死」という暗闇に浮かんでは消え入りそうな「実存」という「光」に収斂されるのではないだろうか。芭蕉が喝破した「物の見えたる光いまだ心に消えざる中にいひとむべし」(『三冊子』)とは、まさに「さび」の極限において、言葉を以て言葉を超える芸術的昇華に迫る瞬間の大事を言っているのだと思う。

 

季語 : 鵜舟(夏) 出典 : 『曠野』(『泊船集』『青莚』)

 

After exciting
a sadness sank deeply into my mind
as cormorant boats passed

 

f:id:basho100:20210225124326j:plain

鵜舟の篝火