しらつゆもこぼさぬはぎのうねりかな
元禄5〜6年(1692〜93)頃の作。『しをり集』には「予間居採荼庵、それが垣根に秋萩をうつし植て、初秋の風ほのかに、露置わたしたる夕べ」と杉山杉風による前書が記されている。
萩は、落葉低木であり、その枝は数条に別れて低く垂れ下がる。風が吹けば容易に撓ってうねる。掲句は、その萩の枝葉に付いている白露を落とすことなく風にゆれている光景をうまく捉えている。
ちなみに「萩」は、本来、中国では蓬の類いを指す字だが、日本では秋に草冠を付けた会意による国字としてハギを指す。『万葉集』でもよく詠まれる植物で、秋の七草の一つとしても知られている。『鳩の水』では「月かげをこぼさぬ萩のうねりかな」とあるが、中秋の名月には芒だけでなく萩もまた月見団子と共に月に供える風習があったという。なるほど、山本健吉が指摘するように、言外に秋の到来を告げる初風が掲句には籠められている。
しかしながら、掲句の主眼は秋の到来ではなく、秋風に吹かれても儚き露を落とさない萩のしなやかさに象徴される仏教的な救済にも似た詩想のような気がする。芭蕉最晩年の穏やかで円熟した心境もそこに覗われよう。
季語 : 萩(秋) 出典 : 『芭蕉圖録』
The bush clovers
undulating by the wind
not spilling dews

