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芭蕉百句 100 haikus of Basho

芭蕉百句の評釈と英訳(漸次更新中) 100 haikus of Basho selected and translated into English by Takatoshi Goto

一家に遊女もねたり萩と月

ひとつやにいうぢょもねたりはぎとつき

 

 元禄2年(1689)7月12日、市振での作。北陸道を西に向かった芭蕉は「親不知・子不知」の難所を越えて、市振の宿で一泊する。掲句における「一家」とは、桔梗屋という旅籠のことである。そこで、一間隔てた部屋から若い女性二人と付き添いらしき年配の男性が話す声が聞こえてくる。どうやら新潟から伊勢参りに向かう遊女と彼女らを見送りに来た男のようである。いずれにしても、遊女と漂泊の俳諧師が同じ屋根の下で夜を過ごすことになった奇遇に芭蕉は詩興をそそられる。前者は、様々な理由で身を売らざるを得なかった薄幸な女性、後者は、世を厭う漂泊の詩人であり、ともに、士農工商という社会構造から逸脱した特殊な存在であり、そういう意味では、人生の悲哀を共有する同士として互いに共感し合える存在でもあったろう。しかも遊女は元来は芸能に従事するものでもあった。これらに鑑みれば、芭蕉の彼女らに対する同情も一方ならぬものがあったろう。

 折しも、旅籠の庭だろうか、萩に月の光が射している。前者を若い女性、後者を道心の標と見れば、まさに遊女と芭蕉の奇縁がそこに重なっているようでもある。あくまでも「遊女とねたり」ではないのだから、もちろん何事もなく夜は更けて夜明けを迎える。

 朝になって、遊女らは、芭蕉を出家僧と思ったのか、その慈悲心に頼って旅の同行を涙ながらに請うが、それを芭蕉は慰めの言葉とともに断る。ただ、そのあとに「あはれさ、しばらくやまざりけらし」と述べて、弱者への優しい心底を覗かせるが、あくまで芭蕉俳諧修行に専心する旅を選んだのである。月はすでに消え失せて仮の宿には萩が露を零すばかりなのであった。

 

季語 : 萩(秋) 出典 : 『おくのほそ道』

 

Under the same roof
prostitutes lie down at a nearby room —
bush clover and the moon

 

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白萩