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芭蕉百句 100 haikus of Basho

芭蕉百句の評釈と英訳(漸次更新中) 100 haikus of Basho selected and translated into English by Takatoshi Goto

行春や鳥啼魚の目は泪

ゆくはるやとりなきうをのめはなみだ

 

 元禄2年(1689)3月27日、芭蕉と河合曽良は、早暁に深川から舟で隅田川を北上して千住にて上陸し、日光街道へ入った。舟に乗って同行してきた親しい人々とは、千住で別れることとなる。掲句の前文に「前途三千里のおもひ胸にふさがりて、幻のちまたに別離の泪をそゝく」(『おくのほそ道』)とある。今回の旅は長い行程となるため、客死も覚悟とはいえ、深川での生活や親しい人々との離別はやはり辛いものである。もっとも、それが儚い仮の世との別れだと分かっていても涙が溢れてくる。そうした悲しみの中では、鳥の声も嘆きに聞こえ、魚までもが泪しているように感じられる。ましてや春も過ぎゆく時季とあってはなおさらである。

 「ちまた」とは「岐」とも書くように千住は、芭蕉にとって「仮の世」(現世)を後にして「真の世」(来世)へ向かう岐路でもあったのである。そう考えると、まるで此岸と彼岸を分ける三途の川のような隅田川千住大橋が架かっている光景が思い浮かぶ。ちなみに、「千住」という地名は旧荒川(隅田川)から拾い上げられた千手観音に由来するという。また、「千住」という言葉は、『おくのほそ道』の冒頭に見える、船頭や馬子が「日々旅にして旅を栖(すみか)とす」という記述、あるいは、逆に長い年月に亘る居住にも通じて、まさに「漂泊」と「定住」の分岐点として相応しい地名とも言えるかもしれない。いずれにしても、掲句を「矢立の初め」として、ここから「風雅の誠」を探求する芭蕉一行の大いなる『奥の細道』の旅が始まるのである。

 

季語 : 行春(春) 出典 : 『おくのほそ道』

 

Spring is passing
birds cry and tears welled up
in fishes' eyes

 

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千住の大橋・名所江戸百景