おもしろやことしのはるもたびのそら
元禄2年(1689)の作か。『甲子吟行(野ざらし紀行)』や『笈の小文』の旅など、貞享年間はまさに「漂泊」の生活が続いたが、今年の春も旅の空を仰ぐことになりそうで、それもまた楽しみなことであるといった句意。『去来文』の「よとぎの詞」は、長崎への旅に思いを馳せた向井去来の文章であるが、その中に掲句が記されている。ちなみに『奥の細道』の旅のあとに芭蕉は長崎への旅を予定していたとされるが、これは大坂における芭蕉の客死によって幻に終わる。
かくして、同年の暮春、芭蕉は『奥の細道』の旅へと出発することになる。深川の芭蕉庵で少時の休息を取ったあと、芭蕉は「みちのく」の空の下を旅することになる。もちろん、この旅は、歌枕をはじめ西行や能因などの旧跡を辿りながら故人が求めたところを求めて「風雅の誠」に迫る旅でもあった。
以前、ある航空会社がその広告に掲句を用いていたのを見てなるほど良い句を選んだなと感心したことを憶えている。いずれにしても、最後の旅として芭蕉が「長崎」の旅を実現させていたなら、どのような句を詠んだかと実に興味の尽きないところである。
季語 : はる(春)あるいは、ことし(新年) 出典 : 『去来文』
How exciting
going to journey this spring too
under another sky

