俳句・短歌ランキング
にほんブログ村 ポエムブログ 俳句へ
にほんブログ村

芭蕉百句 100 haikus of Basho

芭蕉百句の評釈と英訳 100 haikus of Basho selected and translated into English by Takatoshi Goto  © 2021 Takatoshi Goto

しばらくは花の上なる月夜かな

しばらくははなのうえなるつきよかな

 

 貞享5年(1688)、吉野での作とされている。(『蕉翁句集』)咲き誇る桜の上に、朧に花を照らす春の月が輝いている。そして、やがて月は西に傾いて、この花月の照応による佳景も消え去ることが「しばらく」という措辞から覗われる。儚いから風雅も極まるのであり、このことは生生流転における「さび」の美意識に繋がっている。もっとも、「しばらく」は月の運行や花の時期のみならず、月へと羽化登仙するかのような芭蕉の心境にもかかっているのではないだろうか。このことは、まさに芭蕉が喝破した「発句の事は行きて帰る心の味ひなり」ということと深く関わっていると思われる。

 余談であるが、以前、古代製鉄の研究のため、日本刀の源流の一つとして知られる舞草刀や舞草鍛冶にゆかりのある儛草神社を訪ねたことがある。神社は観音山の頂上付近にあり、険しい山道を登らなければならないが、その近くの大部ケ岩から眼下に望める北上川、その対岸には奥州藤原氏の居館や金色堂のある平泉、河畔に広がる平野とその背後には奥羽山脈が連なっており絶景であった。また、境内にほど近い白山岳では、舞草鍛冶遺跡や鉄鉱石採掘場跡も見学できてとても参考になった。さて、そろそろ下山しようとしていた時に、ふと境内に椿の群落を見付けた。まだ、少しだけ花も咲いていて、こんな寒冷の地でも立派に生長している椿に感嘆していたら、何と椿の木の下に石碑を見付けた。かなり古いもので風化によって容易に文字を読み取れなかったが、そのすぐ側に比較的新しい方柱が立っており、そこに「しばらくは花の上なる月夜かな 芭蕉」と記されていた。ふたたび、その石碑を確かめると、かろうじて文字を追うことができて掲句が刻まれた句碑と分かった。『奥の細道』の旅で芭蕉が平泉に立ち寄ったこが、おそらく、ここへは訪れていないから、心ある地元の方々が建立したのであろう。平泉を見渡せる頂に遙かなる時空を超えて今日まで掲句を受け継いできた「みちのく」の人情や風土に深く心を打たれた次第である。

 

季語 : 花(春) 出典 : 『初蟬』(『喪の名残』『泊船集』)

 

For a while
the moon is shining brightly
above cherry blossoms

 

f:id:basho100:20210219125241j:plain

桜月夜