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芭蕉百句 100 haikus of Basho

芭蕉百句の評釈と英訳 100 haikus of Basho selected and translated into English by Takatoshi Goto  © 2021 Takatoshi Goto

名月や池をめぐりて夜もすがら

めいげつやいけをめぐりてよもすがら

 

 貞享3年(1686)の作。宝井其角の『雑談集』に「芭蕉庵の月みんとて舟催して参りたれば」と前文があり、其角など門人たちが水路を経て深川の芭蕉庵を訪ね来て、月見をした際の句と思われる。第二次芭蕉庵に「古池や」の句にも詠まれた池があったと考えられ、その周りを門人たちと歩きながら名月を賞したのであろう。隅田川の向こうには江戸の街明かりも広がり、まさに現在でいうウォーターフロントであった当時の深川は絶好のお月見ポイントだったに違いない。

 侘び住まいとはいえ、門人たちと名月を賞することは芭蕉にとって、楽しい一時であり、思わず夜を明かすまで月見に興じた場景が彷彿される。月の光に魅了され、時を忘れて池の周りを回遊する姿からは、あたかも月へと昇る心地さへも想像される。

 ちなみに、中国では、かつて仙女だったが嫦娥が地上に降りたがために不死でなくなったことから、夫の后羿が西王母かもらっていた不死の薬を盗んで飲み、月に逃げた際に、蟾蜍(ヒキガエル)になったと『淮南子』に伝えられている。欠けては満ちる月と、冬眠から蘇る蛙は不老不死の象徴として重なることも影響していると思われる。さらに水陸両生の蛙は水平線から昇る月へ泳いで向かうことも可能である。芭蕉が蛙を愛でたのも、あるいは、そうした蛙への憧憬があったのかもしれない。仮の世とはいえ、何度も死(社会的死や焼死なども含め)の危機に直面し、また旅に死すことを厭わず、実際に大坂で客死することになる芭蕉は、詩的昇華にって垣間見られる仙境として名月を眺めていたのではないかとも思われる。余談であるが、蟾蜍の外分泌腺から出る蟾酥という液体には心臓機能を強める薬用成分が含まれている。しかし、それは心肺蘇生などに役立つ反面、過ぎたれば毒となる二面性を持つ。

 さて、翌年の貞享4年(1687)には、『鹿島紀行』そして『笈の小文』の旅に出ることになるが、この頃には、すでに芭蕉の心は旅の空にあったのかもしれない。月が芭蕉の旅心を刺激する力を持っていたことは確かである。『鹿島紀行』の目的が常陸・鹿島の月見であったこと、さらには松島の月がのちの『奥の細道』の旅へ出る契機の一つとなったこともその証左である。

 

季語 : 名月(秋) 出典 : 『孤松』(『あつめ句』『葛の松原』『橋南』)

 

The harvest moon —
taking a walk around the pond
throughout the night

 

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十五夜